アパレル業界に学ぶ!AIのマーケティング活用

「マーケティングは大切と言うけど、何から手をつければいいんだろう?」そんな疑問にダイレクトマーケティングのプロがお応え。世の中の販促マーケティングの実例から重要なポイントを分析し、明日から使える実践的ノウハウとしてわかりやすくご紹介します!
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皆さんはドラゴンクエストというゲームはご存知ですか?
プレイしたことはなくても、名前は知っているという方も多いのではないでしょうか。実はこのゲーム、1990年発売の「ドラゴンクエストIV」の時点でAI(人工知能)を使って、
・味方キャラクターをあらかじめ指定した作戦により行動させる→自動化
・戦闘中にモンスターの弱点や特性を学習してキャラクターが成長する→最適化
という「自動化+最適化」の機能を実現していたそうです。
この2つはまさに今、マーケティングの世界でもAIに期待されている機能でしょう。
・顧客とのコミュニケーション(の一部)を人に代わって行う→自動化
・顧客の購買特性を学習し、顧客ごとに最適なマーケティング施策を選択する→最適化
というような形です。
今回は、この2つの機能の視点から、特にAIのマーケティング活用が進んでいるアパレル業界での先端的な事例を見ていくことにします。
また一方で、自動化や最適化の技術が進んでも残るマーケターの役割とは何か、についても改めて考えたいと思います。
1.「パーソナルスタイリスト」への挑戦
はるやま商事株式会社の事例
紳士服の販売などを手掛けているはるやま商事株式会社は、ダイレクトメールのおすすめ商品掲載とオンラインショップでのレコメンドにおいて、AI・「SENSY」を使って顧客ごとにパーソナライズ化されたアプローチを行っています。
http://www.haruyama-co.jp/news/pdf/201606_62124_1.pdf
ここで活用されている「SENSY」は、顧客一人ひとりの過去の購入履歴やアイテム選択を、優れた画像認識処理能力と自然言語処理技術によって学習し、商品提案を行います。
将来的には顧客一人ひとりのファッションセンスと目的を反映したコーディネートの提案まで行い、顧客のクローゼットとショップを繋ぐ「パーソナルスタイリスト」になることを目指しているそうです。
リアル店舗のスタッフと少しずつ仲良くなっていって、今では自分の好みを的確に理解して相談に乗ってくれる存在になっている、というのと同じことをダイレクトメールやオンラインショップでもAIが実現してくれるとしたら、素晴らしいことですね。
※リコー×SENSYセミナーレポートはこちら
2.個々の顧客への提案の最適化
株式会社ZOZOの事例
ZOZO社は、社長の個性的な言動ばかりが取り上げられがちですが、マーケティングにAIを取り入れる動きを非常に活発に行っています。
直近では、2019年1月15日に以下のような発表をしています。
「ZOZO研究所、1200万人が使うファッションコーディネートアプリ「WEAR」のビッグデータを活用した共同研究を同志社大学と開始~AIを用いたレコメンドエンジンの精度向上と、ファッションスタイルの数値化を目指す〜」
https://corp.zozo.com/news/20190115-6848/
ここでZOZOは、現在感覚的に語られているファッションを数値化するための研究を進め、将来的には
・自社サービスの検索性向上
・保有データを解析することによるトレンドの発見
・より精度の高いレコメンドエンジンの開発
など、サービスへの実用化も検討していくとしています。
ZOZOは、この取組み以前にもZOZOSUITSで採寸したデータも膨大に持っていますし、ZOZOHEATは現状でもサイズ展開は1000以上あります。こういった「サイズ」という客観データに加え、今回の共同研究でコーディネートやファッションスタイルの好みまで数値化し、レコメンドに反映させようとしています。
こうなると、顧客の優良化プロセスのパターンと、その各段階で推奨する商品、サイズ、色、そしてコーディネート提案まで考えた時のマーケティング施策の組合せは、もはや人間では処理できない数になることでしょう。
現状でも、MA(マーケティング・オートメーション)ツールを使えば、前もって設定したシナリオで各種マーケティング施策を自動実行してくれますが、そこにAIを組み合わせることで、定型的なコミュニケーションの自動化にとどまらず、膨大な過去データから優良顧客を育成するプロセスを学習し、実行可能なマーケティング施策の中から、その都度その顧客に合った最適なものを選択し、提供することが実現しつつあります。
例えば、新規顧客が優良化するまでのプロセスに着目し、その購買履歴やWEBサイト上での行動履歴、年齢、地域、性別などの属性情報などの特徴で、いくつかのグループ=セグメントに分けます。
そして、各セグメントの顧客に向けて、セグメントAなら◇◇商品購入後3週間経過のタイミングで○○商品をDMで提案、セグメントBなら同じタイミングでも、別の△△商品をオンラインショップのレコメンド機能を使って提案、セグメントCなら、初回購入1週間後に自社口コミサイトに書き込みを行うと、□□商品をプレゼントするキャンペーンに誘導するなど、施策やチャネルを含め一人ひとりに最適なコミュニケーションストーリーが展開されていくようになるでしょう。
また、他業種の似たようなアプローチでは、金融業界が投資家向け金融商品の提案で、顧客毎の投資行動パターンや投資心理を脳科学のアプローチでAIが学習し、その顧客に合わせた最適な提案を出し分ける、というものもあります。
ZOZOの、「感覚ではなく、データに基づいたAIによるファッションとの新しい出会いを創出し、ファッションを楽しむ人を一人でも多く増やすことを目指す」という取り組みは、消費者としてもマーケターとしても、非常に楽しみです。
3.AI時代のマーケターの役割
「Why(なぜ=目的)」「How(どうやって=方法)」「What(何を=行為)」という3つの問いかけの中で、優れたリーダーはWhy(なぜ)=目的を最も重視する、という話を聞いたことがあるのではないでしょうか。
AIは、HowやWhatについては、自動化や最適化を通じて強力にアシストしてくれますが、今のところWhy(なぜ)=目的までは考えてくれません。
今後各種のツールやAIの導入が進むにつれ、マーケターの役割は、「Why(なぜ)」の部分に集約されて行くのではないでしょうか。
前回までのコラムで、(カスタマージャーニーマップなどを元に)顧客が本当に欲している情報や、顧客にとって良質な体験をどうやって提供するか考えることがマーケターの大事な役割だと述べました。それをこの話に当てはめると、例えば、「どのチャネルでどの体験をしてもらうことが顧客の優良化に最も寄与するか」、というところまではAIに決めさせることは出来ても、「なぜこの体験を顧客にしてもらいたいのか、体験を通じて顧客に自分たちをどう感じてもらいたいのか」というWhyは、やはりマーケターが情熱と想いをもって取り組むべきことであり続けるでしょう。
まとめ
以上、いかがでしたでしょうか。
かつては、今回取り上げたAIのような先進システムを活用するには膨大な設備投資が必要で、恩恵を受けるのは大手企業が中心でした(1990年代のCRMシステムなど)。
しかし、最近ではサービスを必要な時に必要なだけ利用できるクラウドサービスが拡大し、ハードウェアそのものの低価格化も進んでいます。
むしろ今では、大手企業に戦いを挑む立場の企業やサービスこそ、こういった自動化、最適化のためのシステムを導入することで、知恵とスピードを武器に大手の一歩先を行くマーケティングを実現できる環境が整いつつある、と言えるでしょう。
以前、デジタルマーケティングにおいては、「GIANT KILLING(弱者の戦略が強者を倒す→番狂わせの意)」が起こせるとお話しましたが、AI活用で更に強力に番狂わせが起こせそうですね。
コラム執筆者プロフィール
岩井信也
日本ダイレクトマーケティング学会本部理事(事務局長)
(株)ブラックス 取締役
(株)日本能率協会マネジメントセンター パートナーコンサルタント
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