データドリブンの実践ーLTV分析を武器にする

データドリブンの実践ーLTV分析を武器にする

「マーケティングは大切と言うけど、何から手をつければいいんだろう?」そんな疑問にダイレクトマーケティングのプロがお応え。世の中の販促マーケティングの実例から重要なポイントを分析し、明日から使える実践的ノウハウとしてわかりやすくご紹介します!

前回はデジタルマーケティングが「かつてのWEBマーケティングから何が進化したのか?」という視点で、「オムニチャネル」と「ビッグデータ」の2つの大きな要素があることと、スマホがその進化の中でキーデバイスとしての役割を果たしている点について解説しました。

今回は「データドリブン」という言葉を軸にデジタルマーケティングの理解を更に深めて行きます。

マーケティングの世界には、一時的に持て囃されては消えていく「バズワード(もっともらしい専門用語)」が毎年のように生まれます。「データドリブン」も2010〜2012年頃はそういう扱いでしたが、現在ではあえて強調するまでもない、と言えるところまで定着した感があります。

1.データに基づく意思決定〜データドリブン

世界最大のマーケティング組織である、アメリカ・マーケティング協会では、毎年もっとも優れたマーケティングの書籍を表彰する制度があり、2011年に受賞したのが、マーク・ジェフリーの書いた「Data-Driven Marketing: The 15 Metrics Everyone in Marketing Should Know」です。

2017年に「データドリブン・マーケティングー最低限知っておくべき15の指標」という題名で日本でも発売されたのでご存知の方も多いのではないでょうか?
この本では、データに基づく意思決定において重要なものとして、以下の15の指標が挙げられています。

1.ブランド認知率
2.試乗(お試し)
3.解約(離反)率
4.顧客満足度
5.オファー応諾率
6.利益
7.正味現在価値(NPV)
8.内部収益率(IRR)
9.投資回収期間
10.顧客生涯価値(LTV)
11.クリック単価(CPC)
12.トランザクションコンバージョン率(TCR)
13.広告費用対効果(ROAS)
14.直帰率
15.口コミ増幅係数(WOM)

これらの指標は、端的に言えば、「マーケティング施策の反応がどれだけあったか」、「獲得した顧客は維持/育成できているのか」、「それで結局儲かったのか」、ということを明確にするためのものです。指標のいくつかは、デジタルテクノロジーの発展によってチェックできるようになったもので、デジタルマーケティングと密接に関わっています。

2.中心となるのは顧客生涯価値(LTV)

この15の指標の中でも、10.顧客生涯価値(LTV)は特に重要です。
下表はLTVの簡単な計算例です。

LTV計算例


まず、1年目の欄を見て下さい。あるキャンペーンで獲得した顧客が1,000人(A)いたとします。1年目の売上合計が15,000,000円(D)とします。
この時、商品原価やカタログ送付などのマーケティング費用や商品の送料などの費用を売上の50%(E)と想定すると、コストの合計は7,500,000円(F)になります。
すると、総利益も7,500,000円(G)となりますが、これを顧客数の1,000人で割ると、初年度のLTVは7,500円(I)になります。

翌年度の計算は、50%の顧客が1年目から残った(B)という想定で、顧客数は500人(A)で計算しています。その他の設定は1年目と同じです。
以上を5年目まで繰り返すと、LTVは15,354円になります。

この結果から、例えば新規顧客獲得コストを1年目で回収しなければならないとすると7,500円までしかかけられない計算になりますが、長いスパンで考えればもっと初回の顧客獲得にかけられるコストを増やそうという意思決定も可能です。

LTVの考え方イメージ


また、このような計算プロセスでLTVを表現すると、残りの14の指標全てと大なり小なり関係していることが分かります。

例えば、上記表の顧客数(A)は、上記15の指標の1.ブランド認知率 、2.試乗(お試し)、5.オファー応諾率、12.トランザクションコンバージョン率(TCR)、14.直帰率 、 15.口コミ増幅係数(WOM)などにより増減します。

顧客維持率(B)は、3.解約(離反)率の反対語ですし、4.顧客満足度がその向上のために重要だとされています。

売上は、13.広告費用対効果(ROAS)が高ければ向上します。

コスト(E、F)は11.クリック単価(CPC)などで表される、マーケティング施策の費用を含みます。

そして、利益(G、H)は、6.利益、7.正味現在価値(NPV) 、8.内部収益率(IRR)、 9.投資回収期間、などを計算する際の基礎資料になります。

例えば、翌年度以降の売上計画を立てる時にも既存顧客の売上をこの表で予測し、各年度の新規顧客売上予想と合算します。すると、自社の売上の構造をLTVの視点で可視化することが出来ます。

今回の表は、LTVの構造を理解するために大雑把な計算をしていますが、このレベルででも、一度自社データで作成してみることをおススメします。Excelで計算式を埋め込んでおけば、各種マーケティング施策をとる場合、事前のシミュレーション(顧客数、顧客維持率、一人当たり年間売上に数字を入れて、LTVの変動を見るなど)や、実績値での事後検証をすることが出来ます。
LTVを考えるということは、データドリブン15の指標の全てを統合し、自社のマーケティング施策全体を捉えて考えることにつながるため、特にマーケターが重要視すべき指標というわけです。

それでは次の章では、実際の企業がどのようにこのLTV指標をチェックしマーケティングに活用しているのか、見ていきましょう。

3.顧客生涯価値(LTV)活用の実際

LTVは、どれだけたくさんの顧客と「長く(顧客維持率)、深く(年間売上)」お付き合いできているかを指標として表現したものですが、この発想は中長期的な企業の成長に不可欠です。

いくつか例をあげて見ましょう。

結婚相談業界

結婚相談所業界では最大手クラスのIBJ社では、従来の成婚、つまり結婚するまでのサービス提供から、結婚後の住まい、転職、出産、育児などの総合ライフデザイン提供までその事業領域を広げることで、LTV向上を図ることを成長戦略の柱として位置づけています。

この場合、新規に立ち上げる事業の収益性は、従来の成婚までのサービスで実現していたLTVと比べ、どれだけ向上したかで評価できます。

例えば、成婚から引き続きサービスを受け続ける顧客が○○%、購入する物品やサービスが年間○○円の増加、その結果、成婚後からの累積で〇〇円のLTV向上、という具合です。

(出典:https://www.ibjapan.jp/pdf/ir/ir-data/meeting/2016/20170214.pdf ※P22)

小売業界

赤ちゃん本舗、セブン-イレブン、イトーヨーカドー、ロフト、オムニ7などのグループを擁して、オムニチャネル戦略では日本のリーダー的存在であったセブン&アイグループですが、2016年の中期経営計画で「オムニ戦略再定義」の一つの柱としてLTVを位置づけ、赤ちゃん本舗、セブン-イレブン、イトーヨーカドー、ロフト、オムニ7など「あらゆる消費場面をつなぎLTVからサービスを付加」、そして「グループですべてのライフステージ、ライフシーンをカバー、LTV最大化を図る」としています。

この戦略は、グループ共通IDで顧客情報を一元管理していることが前提ですが、例えば、従来セブン−イレブンしか使っていなかった若者が、結婚して子供が出来て赤ちゃん本舗を訪れ、その後新居のDIYのためにロフトで資材を購入し、郊外に引っ越した後はイトーヨーカドーを日々の買い物に活用している、といったリアルな購買行動の変化の様子と、実際に向上したLTVのデータを共有できれば、各店舗の従業員までが自分の日常的な接客の重要性を感じるのではないでしょうか。

(出典:https://www.7andi.com/library/dbps_data/_template_/_res/ir/library/ks/pdf/2016_1007ks02.pdf ※P26〜29)

セブンアンドアイグループの事例



顧客と深くお付き合いする

LTVは、上記のような戦略レベルの構想から、個々の施策レベルの打ち手まで、その効果を検証する指標として機能します。

まずは、LTV計算表を実際に作成してみることで、「それで結局儲かったの?」という経営層の問いかけに、より明確に答えられるようになると思います。

まとめ

以上、いかがでしたでしょうか。デジタルマーケティングの世界では、AIなど手法はどんどん進化していますが、あくまでもマーケティングの目的は、「顧客の獲得」と「顧客の維持・育成」です。そしてその結果、企業の収益(売上、利益)にどう貢献したのか、をマーケターが求められることはツールや手法が進化しても変わらないでしょう。データドリブンはその因果関係をLTVを中心とした指標で証明し、最適な意思決定を行う、という考え方なのです。ぜひ皆様も自社のマーケティングで活用してみてください。

コラム執筆者プロフィール
岩井信也
日本ダイレクトマーケティング学会本部理事(事務局長)
(株)ブラックス 取締役
(株)日本能率協会マネジメントセンター パートナーコンサルタント



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