スマホ時代のデジタルマーケティングとは?

From: ダイレクトマーケティングラボ

2019年01月24日 00:00

この記事に書いてあること

「マーケティングは大切と言うけど、何から手をつければいいんだろう?」そんな疑問にダイレクトマーケティングのプロがお応え。世の中の販促マーケティングの実例から重要なポイントを分析し、明日から使える実践的ノウハウとしてわかりやすくご紹介します!

今回から「デジタルマーケティング」について具体的な事例を交えながら解説していきますが、初回となる今回は、このデジタルマーケティングが「かつてのWEBマーケティングから何が進化したのか?」についてスマホが果たしている役割を軸に見ていきます。

WEBマーケティングからデジタルマーケティングへの進化を語る際、「オムニチャネル」と「ビッグデータ」の2つが大きな要素として良く挙げられます。

オムニチャネルとは、顧客が販売側にある各チャネルの壁を意識することなく、全てのチャネルが渾然一体となった形で商品やサービスの提供を受けている状態を指します。

また、オムニチャネルの下で、各チャネルを顧客が自由に行き来する結果生じるのが「ビッグデータ」です。例えば、コールセンターでの顧客との通話を録音した音声データ、店舗内に設置した各種センサーによる店舗内回遊ログデータ、WEBサイト上での回遊ログデータ、口コミ投稿などのテキストデータなどです。これらのデータを、従来から収集している顧客属性データや購買データと組み合わせることで、より正確なセグメンテーションを行なったり、マーケターが最も知りたい「顧客が買いたい気持ちになるプロセス」を解明しようというのです。

こういったデジタルマーケティング進化の流れの中で、スマホはキーデバイスとしての役割を果たしています。例えば後述するように、スマホと各種アプリを組み合わせることで、顧客個々人からのデータ取得や、顧客へのパーソナライズされた情報提供がリアルタイムで行えます。つまりスマホはビッグデータの収集源でも有り、その解析結果であるオムニチャネル施策の展開先でもあるわけです。

それでは、以下詳しく見ていきましょう。

1.スマホがキーデバイスとして機能する「オムニチャネル」

「オムニチャネル」という言葉が登場した背景には、下図のような小売チャネル進化の歴史が有りました。この図は、2011年に開催された全米小売業協会の「Mobile Retailing Blueprint V2.0」の中で登場した図を筆者が加工したものです。

オムニチャネルへの変遷のイメージ

オムニチャネルにおいては、顧客データはチャネル間で統合され、どのチャネルで買い物しても特定の個人として認識されます。在庫管理も各チャネルで連携しているので、購入、受け取り、返品などをチャネルの壁を越えて使い分けることもできます。この図では、スマホがオムニチャネルを象徴するデバイスとして表現されています。

かつてのガラケーによるモバイルマーケティングは、限られた画面の大きさや回線スピードの問題からネット接続端末としての機能が弱かったため、WEBマーケティングの世界では脇役としての扱いがしばらく続きました。

実際、筆者がかつて勤務した化粧品会社では、ガラケーで接続する各種モバイルサイト上でのキャンペーン獲得顧客は、CPOで見ると最も効率が良かった(最も安く獲得できた)のですが、平均購入単価が低く、継続率も悪かったので、1年後の収益で見ると、数万人単位のセグメントが丸ごと赤字ギリギリだったことが有りました。端的に言って、「比較的容易に衝動買いするがその後が続かない」顧客セグメントでした。

しかし、この傾向はスマホ登場後に改善し、今ではオムニチャネル化の立役者として、長期的な顧客関係構築のためのさまざまな施策(自社SNSや期間限定のキャンペーンサイト、カタログ定期配信アプリなど)のキーデバイスになっています。

また、百貨店業界は古くからカタログ通販を行っており、これにオンラインストアも併設し、店舗と組み合わせることでオムニチャネル戦略を各社実施しています。例えば高島屋は、自社アプリで以下のような機能を提供しています。

・お気に入り登録した店舗イベントのスマホカレンダー連動
・タカシマヤポイント保有数の確認
・友の会お買物カードの残高確認
・各店で使えるお得なクーポン配信
・アプリ利用や来店時のチェックインでアプリ専用ポイントがたまり、様々なプレゼントと交換
・コラム(イベント情報、バイヤーのおすすめ、旬な情報など)
・デジタルカタログ(カタログ冊子や各店の折込チラシがいつでも確認可能)
・タカシマヤの各種オンラインショッピングサイトへのポータル機能
・対象カタログの気に入った商品をアプリのカメラで読み取ると、オンラインストアの該当商品を表示するカタログスキャン機能
・お気に入り店舗のFacebook、Twitter、LINE、Instagramへのリンク

(タカシマヤアプリ:https://www.takashimaya.co.jp/store/special/takaapp/index.html

ここからは、高島屋のデジタルマーケティングにかける熱意と共に、オムニチャネル戦略の根幹にスマホアプリを据えていること、アプリ利用を通じたビッグデータ収集を意識していることが伺えます。

2.テキストマイニング等による「感情」の数値化

冒頭、ビッグデータによって、マーケターが最も知りたい「顧客が買いたい気持ちになるプロセス」を解明しようとしている、と述べました。その手段のうち、最も活用されているのがテキストマイニングでしょう。

スマホはそのパーソナル性、モバイル性の強さから、「リアルタイムに」「誰かと繋がる」ツールしての性質を強く持っています。この特性に対応してまたたく間に普及したのがソーシャルメディアやSNSです。ここで交わされている会話は、従来の顧客アンケートなどの公式な調査では拾いきれない本音の顧客の声、感情の宝庫です。

また、コールセンターにかかってくる電話は、従来から顧客の声収集の主役の一つでしたが、その記録はオペレーターが自身の記憶とセンター内のルールで仕分けして保存されるものだったので、例えば一つの通話の中に、お褒めとお叱りの双方があった場合(結構有ります)などの処理に正確性を欠くきらいがありました。

それが、全通話録音→テキスト化→テキストマイニングという処理が普及するにつれ、オンライン上での書き込み同様、話者の感情の変化がきめ細かく「見える化」できるようになったのです。

以下はリコーで提供している「見える化エンジン」というテキストマイニングツールの活用例インタビューからの抜粋です。

感情の数値化のイメージ

電鉄会社
とにかく欲しかったのはSNS上のお客さまの声なき声。声ではなくて、声なき声というところが大切で。それに耳を傾けることをはじめたかった。駅やCS窓口ではなくて、車内でボソッとつぶやく人は何を考えているのか。1日200万人いらっしゃるわけですから、何かそこにあるはずだと。表の声と裏の声を一緒にすることで、はじめて我々はお客さまの正しい姿やご意見がわかるのではないか。

製薬会社
顧客の声を定量的に把握できるようになれば、「こんなニーズが何%を占めるが、これはイベントにより増加したことが理由と考えられる」と説得力あるデータを添えて働き掛けられるようになり、製造元でも合理的に対応を急ぐべきかどうかと判断を下せるようになる

テレビ通販
顧客の問い合わせを見える化エンジンによって分析することで、どのような理由で返品・交換を求める人が多いのか、可視化できるようになった。そうした主な返品・交換理由が分かったら、そうした問い合わせが入ったときに使うFAQ集を作成。オペレーターに利用してもらうことで、顧客対応の質を向上させることができた。

こういった、顧客の感情面もデータ化して「顧客の買いたい気持ち」に関する新しい仮説で顧客セグメンテーションを行い、より「One to One」に近いコミュニケーション施策の設計と実行を行う上で必要となるのが、次章の「マーケティングプラットフォーム」です。

3.マーケティングプラットフォームの活用

マーケティングプラットフォームという場合、

DMP (データ マネジメント プラットフォーム)
さまざまなデータソースから得られる匿名顧客のデータをCookie情報をもとに可能な限り名寄せして、見込客として管理したり、既存顧客との関連づけを行い、適切なターゲティングを可能にする情報基盤。

これを更に既存顧客の個人プロファイルと紐づけ、セグメント(例:30代の都内在住の独身女性)単位から個人単位(例:Aさん、Bさん)にまでターゲティング精度を上げたのが、CDP(カスタマーデータプラットフォーム)です。

MA (マーケティング オートメーション)
顧客セグメンテーション機能、ターゲット顧客の購買予想機能、キャンペーンで使用される専用WEBページなどのコンテンツ管理機能、誰にどのタイミングで各種施策を実行するかを管理するキャンペーンマネジメント機能を持つ

アドテクノロジー
インターネット広告の裏側で動いている、広告配信効果の最適化を目的とした各種技術。自社広告が掲載される他社WEBサイト上で、反応が期待できる閲覧者とマッチングして自動で表示し分ける技術など。

の3つのカテゴリに分けられます。

顧客との関係性構築のためのコミュニケーションシナリオ作成の重要性が増すに従い、扱うデータはどんどん増え(=ビッグデータ)、チャネルも複数あるのが大前提(=オムニチャネル)となっています。

上記の3つのソリューションの組み合わせは、「ビッグデータをもとに顧客を適切にセグメンテーションし、その各セグメントに合わせた顧客体験をシナリオ化したカスタマージャーニーを全チャネルで自動実行する」ためのものです。

マーケティングプラットフォームの活用のイメージ

デジタルマーケティング時代のマーケターにとって、カスタマージャーニー・シナリオの仮説設定とその検証というPDCAサイクルをいかに高速で回すか、が非常に重要です。そのためにこれらマーケティングプラットフォームの活用が進んでいくでしょう。

以下の事例は「読売巨人軍」マーケティングプラットフォーム活用です。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000063.000013454.html

私も、このプレスリリースを見て球団のマーケティングもここまで来たか、と驚いたのですが、「読売巨人軍」はそれまでファンクラブ、チケット予約やグッズ購入ができるWEBサイト、公式Twitter、野球教室、グッズショップなど「マルチチャネル」でファン=顧客にサービスや商品を販売していたのですが、顧客データは統合されておらず、マーケティングに活用するためのデータマネジメントが行われていませんでした。球団経営が、特定のスポンサーからの収入に大きく依存していたのもその一因でしょう。

それが今回、各チャネルから集まる顧客の購買データや行動データを統合管理し、パーソナライズされたマーケティング施策を実行するソリューションを導入したというのです。確かにサッカーを中心に野球の競合となるスポーツが増えて、野球をする人も見る人も減り、スポンサー収入にも限界がある中で、ファンとの直接コミュニケーションに今後の成長の道筋を見出しているのではないでしょうか。

考えてみれば、野球、サッカーなどのプロスポーツは子供のころ特定のチームのファンになってもらえれば、高い確率で生涯にわたる「売上」が期待できるビジネスです。適切なセグメンテーションで、贔屓の選手の情報やメッセージ、特別な条件で参加できるイベントへの優待クーポンなどを配信し、二軍も含めた試合のチケットやグッズのレコメンデーションなども併せて行えば、「顧客生涯価値」は大きく向上する期待が持てるのです。

先程の読売巨人軍の例は球団単位の動きですが、Jリーグでは、リーグ全体でチケッティングと来場管理、物販を統一IDでできる基盤として、Jリーグアプリを推し進めています。集約したデータを全クラブに開示して、クラブの営業担当者、マーケティング担当者が色々な施策に活用できるようにしているそうです。この動きは元Jリーグチェアマンの川淵氏が一時の混乱を収拾して発足させたバスケットボールのBリーグにも及んでいます。

https://www.jleague.jp/app/

一部の人気スポーツの有力チームを除き、プロスポーツチームの実態は地場の中堅、中小企業である、というところもマスマーケティングではなく、デジタルマーケティング導入の動機になっているであろうことを考えると、この動きは大いに興味深いものと言えます。

以上、いかがでしたでしょうか。

デジタルマーケティングにおいては、顧客とのあらゆるつながりの中心になるスマホをキーデバイスに、顧客が買いたい気持ちになるプロセスを解明する情報を収集し、そこから立てた仮説=カスタマージャーニー・シナリオの検証サイクルをマーケティングプラットフォームを使って高速に回すことで、まさにサッカーで言うところの「GIANT KILLING(弱者の戦略が強者を倒す→番狂わせの意)」が起こせるのです。

それでは、次回以降は、このデジタルマーケティングの世界を更に深掘りしていきたいと思います。お楽しみに。

日本ダイレクトマーケティング学会本部理事(事務局長)

岩井信也

(株)ブラックス 取締役
(株)日本能率協会マネジメントセンター パートナーコンサルタント

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https://www.ricoh.co.jp/magazines/direct-marketing/column/u00004/

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