価格競争に陥らないための「関係性価値の提供」とは?

価格競争に陥らないための「関係性価値の提供」とは?

「マーケティングは大切と言うけど、何から手をつければいいんだろう?」そんな疑問にダイレクトマーケティングのプロがお応え。世の中の販促マーケティングの実例から重要なポイントを分析し、明日から使える実践的ノウハウとしてわかりやすくご紹介します!

本連載コラムでは、会社規模の大小を問わず実践可能なダイレクトマーケティングの手法やその効果の高め方について、経験豊富なマーケターが身近な事例を元にわかりやすく解説して行きます。

第3回目のテーマは「顧客関係構築」です。今回担当するのは日本ユニシス株式会社のコンテンツマーケティングプロデューサーで、現在金融機関に出向し、農業経営WEBコミュニケーション戦略を担当している橋本紀子氏です。



第1回目の「顧客管理」、第2回目の「情報発信」も、経営資源が限られている企業でも実践可能な内容をご紹介していましたが、今回のテーマの「顧客関係構築」も資源の大小に左右されない、「価格競争に陥らないための価値提供」という視点でお話したいと思います。

皆さんが仕事やプライベートで何かを購入する時の判断基準は何でしょうか?マーケティングの現場においてもこれは大きなテーマの一つですが、以下の3つの価値に基づく判断基準が存在するといわれています。

1)客観的価値(価格や品質、利便性)
2)主観的価値(ブランドの知名度、信頼)
3)関係性価値(顧客との関係、顧客同士の関係の深さ)

3つの価値基準のイメージ


このうち、1)と2)は企業の資源の大小の差が大いに関係しそうですよね。しかし、関係性価値はそうでは有りません。

例えば、ある特定の購買行動やライフスタイルのユーザーに特化したサービスの提供や、自社とユーザーのコミュニティ(注:この場合のコミュニティとはナレッジ=有益な情報、の交換を主な目的とした集団のこと)の形成などは、資源の大小ではなく、顧客への情熱と知恵が物を言います。

例えば、こういったコミュニティ内において、顧客から商品やサービスの改良提案を積極的に受入れ、時には一緒に商品企画を行うようなプログラムなど、更に関係性を強化するような取り組みが行われている企業は、非常に高い関係性価値を顧客に提供していると言えます。

この関係性価値は、1つ目の客観的価値や2つ目の主観的価値に対する評価を越えて、その商品やサービスを使用し続ける動機となる価値基準とも言われています。

それでは以下、事例も見ながら「関係性価値の提供」=顧客関係構築のポイントについて、まず「顧客とのナレッジ(有益な情報)共有」と「ユーザーコミュニティ」の観点から確認して行きましょう。

この2つの手法は主にWEBサイトを中心に展開され、似ているところも多いですが、前者はナレッジとして情報を加工・整理する企業側の積極的な関与が一定程度あるのに対し、後者はそういった企業側の関与が少なく、主にユーザー発信の自然な会話を通じた関係構築の側面が強い、という違いが有ります。

また、顧客関係構築を強力に後押しする、「SNS」についても併せて見ていくことにします。

1.顧客とのナレッジ(有益な情報)共有

ここでいう「ナレッジ」には、マニュアルなどに記載されているスペックや用法などの明示的な「形式知」だけでなく、既存ユーザーが工夫して編み出したノウハウのような「暗黙知」の双方が含まれます。

前者については、WEBサイトやDM/カタログでその商品やサービスの利用シーンをパターンに分けてわかりやすく提示することで、「実際に自分がユーザーになった時のイメージが具体的に湧くようにする」のが主な共有目的です。

後者については、既存ユーザーの生の声を掲示板のような形で共有し、特に注目度の高い投稿については特集的に取り上げるなどして、「ユーザーの商品やサービスに対する愛着や思い入れを更に強化する」ことが主な共有目的です。

下記リンクは、サイボウズOfficeというスケジュール、施設予約、ワークフロー、ファイル共有などの機能を提供するグループウェアのサイトですが、顧客への優れたナレッジ提供、共有事例の一つです。

https://cybozu.zendesk.com/hc/ja

このサイトのメニューを見ると、

1)「Tips・他社事例」
2)「ワークショップ・イベント情報」
3)「社員のつぶやき」
4)「みんなでトーク」

とあります。1)は企業からのノウハウの提供、2)はリアルなコミュニケーションの場の提供、3)社員からの情報提供、4)は顧客同士での情報共有、です。

企業や団体が相手のビジネスにおいては、提供される商品やサービスは業務上の悩みに対するソリューションです。導入担当者にとって、自身の業務にまつわる悩みに関する多彩な情報提供を受けられたり、似たような悩みを持つ他社ユーザーたちの意見が聞ける場があることは、業務改善に直接的に役立つので非常に有益なものとなります。

例えば、1)「Tips・他社事例」についてですが、多くの商品やサービスは、購入前の段階ではその価値をフルに引き出すような使いこなし方のイメージが湧いていないことがしばしば有ります。しかし、自社の業務改善に直結するような具体的な情報近しい規模・業種の事例の提供があれば、導入後の改善レベルのイメージが湧き、価格に対する納得度も上がります

情報で価値の納得度を高めるイメージ


更に2)の「ワークショップ・イベント情報」では、導入担当者の懸念に直接答えるリアルなコミュニケーションの場を用意しており、開催されるワークショップは、「人事総務の悩み事に提供サービスがどう役に立つのか」を実体験してもらうという役割を果たしています。そこで顧客に共有される様々なナレッジの情報源となるのが3)と4)、という関係です。

以上のサイボウズOfficeのサイトメニュー構成からは、自社と顧客との間での情報共有を通じて、暗黙知を積極的に形式知化していこうという強い意思が感じられます。

2.コミュニティが強化するブランド・ロイヤルティ

資源の限られた企業が、単にこのブランドが気に入った、というレベルから、他のブランドにスイッチし難い、というレベルのロイヤルティ=忠誠度にまで顧客を導くには、ユーザーコミュニティの存在は不可欠です。

なぜなら、価格、品質、利便性のバランスや、ブランドへの信頼、などだけで構成された客観的・主観的価値の提供だけでは、より大きな資本力・技術力や世間受けするブランドイメージを持つ競合が登場したら、比較的容易に逆転されてしまいますが、コミュニティを中核とした関係性価値であれば、「顧客への情熱と知恵」で差別化したものを提供できるからです。

以下のサイトは、クレラップのコミュニティサイトです。

https://www.beach.jp/community/KUREHA/index

食品用ラップフィルムの市場はいわゆる成熟市場で、商店街の福引の景品など、タダで入手できる事も多く有ります。つまり、「さしたる思い入れもなく購入する商品」の代表格と言えます。そのような競争環境の中では、価格訴求にメーカーも販売店側も走りがちです。

そこで、メーカーのクレハはコミュニティサイトを立ち上げ、クレラップの効果的な使い方や料理レシピ、顧客同士の自由な語り合いのスペースの提供を通じて「クレラップに対する思い入れの強化=クレラップファンの育成」という戦略に出ました。TVや新聞、雑誌などへの大量広告や、値引きに頼ったプロモーション施策と違い、顧客への情熱と知恵を用いた多いに参考になる取り組みです。

クレラップのコミュニティサイトには、トップページに「みんなで話そう:おしゃべりキッチン」と「みんなで発見:クレラップ楽しみ隊」という2つの大きなメニューが有ります。

前者はクレラップに限らず、ユーザーの日常生活のさまざまな会話、後者はクレラップの使い方に特化したノウハウ共有です。このメニューの果たす役割は以下のように整理できます。

「みんなで話そう:おしゃべりキッチン」
顧客にとって:同じ生活スタイルや嗜好の人と交流ができる
クレハにとって:顧客の何気ない会話からラップやラップ以外の新商品開発のヒントを得る

「みんなで発見:クレラップ楽しみ隊」
顧客にとって:知らなかったクレラップの用途を発見し、生活に取り入れる
クレハにとって:クレラップの新用途提案や商品改良のヒントを得る

こういったコミュニティ内における企業と顧客、顧客と顧客のやりとりの蓄積は、企業にとっては顧客の本音をリアルタイムで収集できる非常に重要な情報源になります。また、それに対する自社の反応(商品企画/改良への反映、クレームや不満へのお詫びや善後策の提案)をリアルタイムで公表することで、顧客にとっては「自分たちが作り上げていくブランド」という一体感をコミュニティを通して実感することが出来ます。

ここまで来ると、仮に強力な競合が出現しても、その競合に対抗するための改善要望を顧客の方から出してくれることさえあるでしょう。

以前の記事でご紹介した「ロイヤルティを高める方法」で、

第一段階:基本価値の提供
第二段:期待価値の提供
第三段階:願望価値の提供
第四段階:予想外価値の提供
第五段階:共感、同一視

と、ある中の最上位にある「共感、同一視」は、このようなコミュニティ内でのコミュニケーションの蓄積の末に到達する境地と言えるのではないでしょうか。

修正ロイヤルティ図表2.png

3.SNSがなぜ重要か

ここまでお話してきて、皆さんはすでになぜSNSがこれほど関係性価値の提供において重要視されているのかおわかりだと思います。SNSは口コミを通じた「オンライン上のナレッジ集積所」であり、「オンライン上の顧客主導型コミュニティ」なのです。

SNSが普及し始めた時、最もその可能性に着目した業界の一つはカタログ通販業界でした。それは、通販の伝統的手法である、頒布会、共同購入などのコミュニティ形成型のマーケティングとの相性の良さや、カタログ・DMにおける「会員の喜びの声紹介」などの口コミが、SNS上でより広範囲に拡散できる可能性に気づいたからです。

もともと、「口コミ」は「マスコミ」との対比で生まれた言葉なので、マスコミへの大量出稿で商品を宣伝する大手メーカー・小売とは違い、事業規模的に同じことが出来ない企業にとって、独自のSNSコミュニティを持つことは大きな武器になります。

SNSの関係性のイメージ


このコミュニティに対する評価が高ければ、そこに参加したい新規顧客の獲得や、既存顧客の維持に大きな力を発揮します。現在、大手カタログ通販企業のWEB受注件数比率は、従来型の受注方法である「電話」/FAX」、「郵便」を上回り、50%を超えているといわれていますが(参考:通販新聞 2018年版EC売上高ランキング)、そこにはSNSの存在が少なからず影響しています。

またSNSは、自社サイトへのアクセスなど個々のユーザーの回遊行動、「いいね」や「リツイート」などの評価数、書き込み内容のテキストマイニングなど様々なデータの抽出・分析が可能であり、顧客の真意を精緻に読み取り、更なる関係性価値を提供できるという点でも大きなメリットがあります。

ただし、それぞれのプラットフォーム(Facebook、Instagram、Twitter、LINEなど)によってユーザーの属性やコミュニケーションの好みが違ったり、「炎上」などのリスクも無視できませんので、それらに注意して取り組むことが重要です。

下記のリンクで詳しくSNSの活用方法や事例を紹介していますので、是非参照して下さい。

SNSマーケティングとは? 活用法と事例を紹介!

以上、いかがでしたでしょうか?

今回取り上げた「関係性価値」を磨き続ける事で、顧客と自社の双方にwin-winな関係性を構築し、持続的な成長を実現して頂ければ、と思います。

コラム執筆者プロフィール
橋本紀子
日本ユニシス株式会社
コンテンツマーケティングプロデューサー
現在金融機関に出向中



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