脳科学で実証!「画面」に勝る「紙」の優位性とは?

From: ダイレクトマーケティングラボ

2022年09月20日 00:00

この記事に書いてあること

トレンドの移り変わりが激しいデジタルマーケティングについて、マーケターが押さえるべきトレンドをまとめました。デジタル変革期に欠かすことの出来ない最新情報をぜひご覧ください。

「紙」に印刷すると間違いに気づく理由とは?

「あれっ!こんなところを間違えてる」―。パソコンの画面上で何回も見直して間違いはなかったはずなのに、紙に印刷すると原稿のミスを発見!こんな経験、皆さんにもあるのではないでしょうか?

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、リモートワークが増えてからは、より一層それを強く感じるようになった気がします。リモートワークではプリンターが無かったり、あっても印刷作業自体が面倒だったり、会社のプリンターに比べるとスピードが遅くて印刷に手間取ったり・・・。そんなわけで、紙でのチェックが怠りがちになってミスが生じる、いつもより目を凝らして画面とにらめっこ・・・なんてこと、増えているかもしれません。

画面よりも紙のほうが、間違いに気がつきやすい。これは皆さんも経験からして納得の事実だと思いますが、その理由なぜだかわかりますか?

実はその理由、脳の働きにあったのです。

「分析」の紙vs「パターン認識」の画面

メディア批評の先駆者、カナダのマーシャル・マクルーハン(1911~1980年)は紙のほうが間違いに気づきやすい理由について、「反射光」と「透過光」の性質の違いを指摘しました。前者は本を読むとき、いったん紙に反射してから目に入る光。一方、後者はパソコンやテレビの画面を見る際、直接目に入る光を指します。

図表反射光と透過光

出典:リコー経済研究所 河内 康高

紙に印刷して読むとき、すなわち反射光で文字を読む際には、人間の脳は「分析モード」に切り替わります。目に入る情報を一つひとつ集中してチェックできるため、間違いを発見しやすくなるのです。

これに対し、画面から発せられる透過光を見る際、脳は「パターン認識モード」になります。送られてくる映像情報などをそのまま受け止めるため、脳は細かい部分を多少無視しながら、全体を把握しようとします。細部に注意をあまり向けられないので、間違いがあっても見逃してしまう確率が高くなるというわけです。

筆者の経験に照らして考えてみると、マクルーハンの学説には納得がいきます。例えば校正作業をする場合、原稿を紙に印刷して確認すると、一文字一文字に集中してチェックできます。

しかし、画面上での原稿チェックは、全体的にざっくり見るような感覚です。もちろん、注意して確認するのですが、脳がパターン認識モードになっているため、細かい部分に集中できないように思うのです。

デタラメな文章も読めてしまう高性能

もう1つ間違いに気がつかない理由として、「脳が高性能過ぎる」ことが挙げられます。「高性能がいけないの?」と不思議に思われるかもしれませんが、それゆえ陥ってしまう落とし穴があるのです。下記の文章を読んでみてください。

何の問題もなく、意味を理解しながら読めるはず。しかし、よく見ると文字順がデタラメだから、意味を成す文章ではありません。

これは、「タイポグリセミア現象」といわれる錯覚の1つ。脳が「正しい単語」を瞬時に予測・補正するため、デタラメな文章でもすらっと読んでしまうのです。普通に意味が通じて読めるだけに、単純な間違いを見落としがち。この現象は紙でも画面でも起こり得ますが、脳がパターン認識モードになる画面ではこの罠(わな)にはまりやすいと言えます。

出典: 「紙」に印刷すると間違いに気づく理由 | リコー経済社会研究所 より

「紙」vs「画面」。記憶力にも力を発揮するのは「紙」!?

「紙」に印刷すると間違いに気づく理由について、脳科学の観点からご説明してきましたが、「画面」と「紙」、実は記憶力にも差があることが実証されています。

東京大学大学院総合文化研究科の酒井邦嘉教授らとNTTデータ経営研究所の共同研究によると、スマートフォンなどの電子機器でメモを取るよりも紙の手帳に書いたときの方が、記憶の定着や記憶の再生に効果を持つことが初めて明らかになりました。

実験は、18~29歳の48人を3つのグループに分け、紙の手帳、手帳と同じ大きさのタブレット、スマートフォンでそれぞれ具体的な予定をメモしてもらい、その1時間後に想起課題を出して、解答を書いている時の脳の動きをfMRI(核磁気共鳴画像法)で測定するというもの。

その結果、書き込まれた答えの正答率は3つのグループで大差がなかったものの、手帳を使ったグループは他の2グループより短時間で解答したうえ、一定の直接的な設問では手帳のグループがタブレットのグループよりよい成績を出しました。

また、この間の脳の活動を見てみると、紙の手帳グループの方が、その他のグループよりも言語処理に関係する運動前野外側部と下前頭回、記憶処理に関係する海馬、視覚をつかさどる領域での活動が定量的に高くなることもわかったのです

研究グループは紙の手帳を使った際、紙上の場所と書き込みの位置関係など視覚情報を同時に関連づけて記憶する連合学習が生じているためとみています。
この研究によって、紙の手帳を使うことで、電子機器を用いた場合よりも、より深い記憶情報を取得できることが脳科学的に証明され、記憶力や創造性につながる紙媒体の重要性が一層明らかになりました。

出典: 2021.3.19 紙の手帳の脳科学的効用について
東京大学大学院総合文化研究科、(株)日本能率協会マネジメントセンター、(株)NTTデータ経営研究所

まとめ

ここまでは脳科学の観点から、画面に比べて紙の優位な点を紹介してきましたが、すべての仕事を紙で行うほうがよいのでしょうか。無論、そうではありません。画面には多大なメリットがあり、デジタル利便性の享受において紙は相手にはなりません。画面を制御するコンピューターは大量の文書を保管できますし、修正や変更なども瞬時に行えるだけでなく、変更履歴や更新日などの自動記録も可能。紙では途方もない労力を要する作業が、画面上なら秒単位で完了することもあります。

上司や同僚と資料を共有するときにも、画面は威力を発揮します。紙の場合、必要部数をコピーした上で配布する必要がある一方、Teamsや Zoomといったウェブ会議システムを導入すれば、資料を簡単に画面共有できます。リモートワークを中心とした「新しい働き方」が定着するwithコロナ時代、これは欠かせない機能になりますね。

デジタルトランスフォーメーション(DX)が本格化する中、画面(デジタルメディア)が利用される場面や重要性はますます高くなるでしょう。しかし、先述のように、集中力を要求される仕事や記憶力・創造性を重視するような場合には紙は画面にはない特徴を発揮し、いぶし銀の活躍を見せてくれます。

大切なのは、どちらのメディアが優れているということではなく、「紙」と「画面」を適材適所で使い分けること、もしくは両方を組み合わせて使うことだと思います。そうしていくことが、逆に効果を上げる「新しい働き方」に繋がるのではないでしょうか。

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